写真の色を決める見えない魔法ホワイトバランスを完全理解する

2025年11月22日

写真のクオリティを大きく左右する要素といえば、露出や構図、レンズ選びなどが一般的に思い浮かびます。しかし、意外と見落とされがちなのが「ホワイトバランス（White Balance）」です。ホワイトバランスは、写真の色味をコントロールするための極めて重要な設定であり、特にデジタル写真では必須の概念と言っても過言ではありません。

この記事では、ホワイトバランスがなぜ重要なのか、カメラの様々な設定モードがどのような原理で動いているのか、どのようにこの設定を使いこなせばいいかを徹底解説します。

ホワイトバランスとは何か？

光の色温度：WBの基本原理

ホワイトバランスとは、一言で言えば「写真における色の偏りを補正し、白を白く写すための機能」です。

私たちが日常で目にする「光」には、実はそれぞれ固有の「色」があります。これを色温度と呼びます。

色温度は、熱せられた物体が発する光の色をケルビン（K）という単位で示したもので、数値が低いほど暖色（赤み、オレンジ色）に、数値が高いほど寒色（青み）になります。

低い色温度（約1,000K〜4,000K）： 炎、白熱電球、朝日・夕日など。色が暖かく、オレンジや赤っぽく見えます。
中程度の色温度（約5,000K〜6,500K）： 晴天時の太陽光、ストロボ光など。色がニュートラルで、ほぼ白く見えます。
高い色温度（約7,000K〜10,000K）： 曇り空、日陰、青空など。色が冷たく、青っぽく見えます。

人間の目 vs. カメラ

人間の脳は非常に優秀で、環境光の色温度が変化しても、「白は白」と自動的に認識し、補正してくれます。例えば、白熱灯のオレンジ色の光の下でも、雪や白い紙を「オレンジ色だ」とは認識しませんよね。

しかし、カメラのセンサーは、光の色温度をそのまま記録してしまいます。

オレンジ色の白熱灯の下で撮影すると、写真全体がオレンジ色に偏る。
日陰の青っぽい光の下で撮影すると、写真全体が青っぽく偏る。

この「環境光の色温度による色の偏り」を打ち消し、カメラに「これが本当の白だ」と教えるのが、ホワイトバランスの役割です。具体的には、環境光の反対色を写真に加えることで、色の偏りを補正します。

青っぽい光（高色温度）には、オレンジ色を加えて補正。
オレンジっぽい光（低色温度）には、青色を加えて補正。

この補正により、被写体の色を忠実に再現し、見たままの自然な色合いの写真を得ることができるのです。

カメラのホワイトバランス設定モード詳解

ほとんどのデジタルカメラには、様々な撮影状況に対応するためのプリセット（初期設定）WBモードが搭載されています。これらのモードは、特定の光の色温度を想定して設計されています。

オートホワイトバランス (AWB)

AWBは、カメラがシーンの光の色温度を自動的に分析し、最適なWBを自動設定してくれるモードです。

ほとんどの日常的な状況で非常に高い精度を発揮し、手軽に自然な色合いが得られます。特に光が一定しない状況で便利です。

光源が複数ある場合や、極端な光の色の場所（例: 劇場の照明、水中の青い光）では、判断を誤り、不自然な色合いになることがあります。
被写体や背景の色の影響を受け、全体の色が偏ることがあります（例: 赤い壁の前で白い服を撮ると、服が少し青っぽく補正される）。

プリセットホワイトバランス

カメラは、特定の環境光を想定した固定の色温度設定をいくつか持っています。

名称	想定される色温度	特徴的な補正色	主な用途
太陽光/晴天	約5,200K	ほぼなし	晴天時の屋外
曇天	約6,000K〜7,000K	やや暖色（赤み/オレンジ）	曇りや霧の日、光が拡散している時
日陰	約7,000K〜10,000K	強めの暖色（オレンジ）	木の影や建物の影、非常に青みが強い環境
白熱灯/電球	約2,500K〜3,000K	強めの寒色（青）	一般的なフィラメント電球の室内
蛍光灯	約3,000K〜6,500K	緑/マゼンタ補正を含む	蛍光灯の種類（昼光色、温白色など）に応じて複数設定があることが多い
ストロボ/フラッシュ	約5,500K	ほぼなし	カメラ内蔵/外部ストロボ使用時

これらのプリセットは、AWBが環境光を正確に認識できない場合や、特定の色の雰囲気を意図的に作りたい場合に非常に有効です。
例えば、曇天の日に[日陰]モード（高色温度を想定）を選ぶと、写真が想定以上にオレンジ色に強調され、肌の色を健康的に、風景をドラマチックに見せることができます。これは、単なる「補正」ではなく、「表現の意図」としてWBを利用するテクニックです。

色温度指定とカスタムWB

本当に正確な色再現や、微妙な色調整が求められる場面では、プリセットやAWBに頼るのではなく、「色温度指定」または「カスタムホワイトバランス」を用います。

色温度（K）指定モード

一部の上位機種では、WBをケルビン値（K）で直接指定できます。

活用シーン: 光の状況が非常に安定しているスタジオ撮影や、特定の光源の色温度が分かっている場合。
テクニック
1. まず撮影現場の光の色温度を測色計で測定します（例: 5,600K）。
2. その値をカメラに設定します。
3. 写真の色味を意図的に暖かくしたい場合は、測定値より低いK値（例: 5,200K）を設定します（→写真にオレンジを足す）。
4. 写真の色味を意図的に冷たくしたい場合は、測定値より高いK値（例: 6,000K）を設定します（→写真に青を足す）。

ケルビン指定は、露出をマニュアルでコントロールするのと同じように、色の表現を完全に自分の意図通りにしたい時に使われます。

カスタムホワイトバランス

カメラに「今、この光の下で、これが白である」と直接教えてあげることで、完璧なWBを設定できます。

準備: 撮影する光と同じ光が当たっている場所に、ニュートラルな色（純粋な白、または18%グレー）の基準となる物体（グレーカードや白い紙、WBキャップなど）を置きます。
撮影/登録: カメラのカスタムWB機能を使って、その基準の物体を画面いっぱいに撮影するか、またはカメラに内蔵された機能でその光の情報を取得します。
適用: カメラが、その基準の物体を完全に「白」として認識するために必要な補正量を算出し、その設定を記憶します。

この方法の最大のメリットは、いかなる複雑な光源下でも正確なWBが得られる点です。例えば、窓からの自然光と室内のタングステン光（白熱灯）が混ざり合った環境では、AWBは混乱しますが、グレーカードを使えば、そのミックスされた光の平均色に基づいた完璧なニュートラルなWBが得られます。

創造的な表現としてのWB

ホワイトバランスは、単に「色を正しくする」だけでなく、「感情や雰囲気を表現するツール」として利用できます。プロは、この補正機能をあえて利用しない、または逆手にとることで、作品に深みを与えます。

雰囲気の強調

温かい雰囲気の演出: ポートレート写真や料理写真では、わずかに暖色（低めのK値）に寄せることで、見る人に安心感や幸福感を与え、料理をより美味しそうに見せることができます。例：夕日の写真で、あえてWBを上げずに夕日のオレンジ色を強調する。
冷たい雰囲気の演出: 冬の風景や、孤独、悲しみを表現したいシーンでは、わずかに寒色（高めのK値）に寄せ、青みを強調します。例：雪景色の青白い静寂を表現するために、あえてWBを低く設定しすぎず、青みを残す。