一眼レフやミラーレスカメラを手に取って、最初に誰もがぶつかる壁。それは「ズームをしたら、なぜか写真が暗くなった」「室内でズームするとシャッター速度が遅くなってブレる」という現象ではないでしょうか。
カメラに付属している「キットレンズ」の多くは、ズーム(望遠側)にするほど、レンズの明るさを示す「F値」の数字が大きくなり、光を取り込む力が弱まってしまいます。
しかし、世の中には「ズーム全域でF値が変わらないレンズ」が存在します。カメラ好きの間では「通しレンズ」や「固定絞りレンズ」と呼ばれるこのタイプ。なぜこのレンズが「優秀」と絶賛され、多くの写真家が最終的に辿り着くのか。その魅力を初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。
そもそも「ズームで明るさが変わる」とはどういうこと?
まずは、一般的なズームレンズ(可変絞りレンズ)の仕組みをおさらいしましょう。
レンズの側面を見ると、「18-55mm F3.5-5.6」といった表記があるはずです。これは、
- 18mm(広角側)のときは、一番明るい設定が F3.5
- 55mm(望遠側)までズームすると、一番明るい設定が F5.6 になることを意味しています。
ズームする(遠くのものを大きく写す)ほど、レンズの構造上、入ってくる光の通り道が相対的に狭くなり、強制的に「暗く」なってしまうのです。
一方で、今回のテーマである優秀なレンズは、「24-70mm F2.8」のようにF値が一つしか書かれていません。これは、広角の24mmでも、望遠の70mmでも、常にF2.8という明るさを維持できることを示しています。
「通しレンズ」が優秀と言われる4つの決定的なメリット
なぜ、ズーム全域で明るさが一定だと嬉しいのでしょうか。具体的なメリットを見ていきましょう。
① シャッタースピードを維持できるから「ブレ」に強い
これが最大のメリットです。 例えば、夕暮れ時や室内での撮影を想像してください。広角側で設定を合わせて撮影し、「もう少し寄りたいな」と思ってズームした瞬間、可変絞りレンズだとF値が上がり(暗くなり)、カメラは光を補うためにシャッタースピードを遅くしてしまいます。
結果として、ズームした瞬間に写真が被写体ブレや手ブレで台無しになってしまうのです。通しレンズなら、ズームしても明るさが変わらないため、シャッタースピードを高速に保ったまま、決定的瞬間を逃さず切り取ることができます。
② 背景ボケの大きさをコントロールしやすい
写真は、F値が小さければ小さいほど背景が大きくボケます。 ポートレート(人物撮影)などで、「顔をアップで写したいからズームしよう」と思った時、可変絞りレンズだとズームするにつれてF値が勝手に大きくなり、ボケ味が弱まってしまうことがあります。
通しレンズであれば、どの焦点距離でも最小F値(開放)で撮れるため、広角でのスナップから望遠でのボケを活かした表現まで、一貫したイメージで撮影を続けることが可能です。
③ マニュアル露出での撮影が劇的に楽になる
動画撮影や、スタジオでのストロボ撮影など、自分で露出(明るさ)を固定して撮る「マニュアルモード」において、通しレンズは神様のような存在です。
可変レンズの場合、ズームするたびに明るさが変わるため、その都度設定をやり直さなければなりません。しかし通しレンズなら、一度設定を決めてしまえば、ズームを繰り返しても明るさが一切変わらないため、構図だけに集中してシャッターを切ることができるのです。
④ レンズ自体の設計・画質がハイグレード
技術的な話になりますが、ズーム全域でF値を一定に保つレンズを作るには、高度な光学設計と高品質なガラスパーツが必要です。そのため、メーカー各社は通しレンズを「上位モデル(フラッグシップ)」として位置づけています。
結果として、明るさだけでなく、解像感、色のり、逆光への強さなど、全体的な描写性能が極めて高い傾向にあります。
F2.8通しとF4通し、どっちを選ぶべき?
通しレンズには大きく分けて2つの定番があります。
- 「大三元」と呼ばれるF2.8通し 圧倒的な明るさとボケ味を誇る、各メーカーの最高峰。暗い体育館でのスポーツ撮影や、結婚式、夜景ポートレートなどで無双します。ただし、重くて高価なのが難点です。
- 「小三元」と呼ばれるF4通し F2.8よりは一段暗いものの、軽量コンパクトで持ち運びやすく、風景写真や旅行に最適です。最近のカメラは高感度耐性が強いため、F4でも十分すぎるほどの実用性があります。
初心者が最初にステップアップするなら、まずは取り回しの良いF4通しから検討するのも賢い選択です。
知っておきたい「通しレンズ」の唯一の弱点
ここまでベタ褒めしてきましたが、あえてデメリットを挙げるなら、それは「サイズと価格」です。
ズームしても明るさを保つための複雑な機構を詰め込むため、レンズはどうしても大きく、重くなります。また、価格もキットレンズの数倍〜十数倍することも珍しくありません。
しかし、その重さと価格のハードルを越えた先には、「設定に振り回されず、自分の思い通りの絵が撮れる」という最高の体験が待っています。
まとめ:失敗写真を減らし、表現を広げるための投資
「ズーム全域で明るさが一定」ということは、単に便利なだけではありません。 それは、「光の条件が変わらない」という安心感を撮影者に与えてくれるということです。
カメラを始めたばかりの頃は、どうしても構図やピント合わせに必死になりがちです。そんな時、ズームするたびに明るさを気にしなくて済むレンズがあれば、よりクリエイティブな視点に集中できるようになります。
「もっと自由に、もっと失敗なく撮りたい」 そう感じ始めたら、ぜひ「通しレンズ」の世界を覗いてみてください。あなたのカメラライフが、一気にプロフェッショナルな領域へと加速するはずです。

