カメラ愛好家やプロフェッショナルにとって、「レンズ沼」という言葉は決して他人事ではありませんよね。広大な風景を収めるための超広角、被写体をドラマチックに切り取る大口径単焦点、遠くの野鳥やスポーツ選手を狙う超望遠。私たち写真家は、常に「今日はどのレンズを持っていくべきか」という終わりのない自問自答を繰り返しています。
しかし、もしあなたが「無人島にレンズを一本だけ持っていくなら?」と尋ねられたら、どう答えるでしょうか。
私の答えは、迷うことなくソニーの「FE 24-70mm F2.8 GM II(SEL2470GM2)」です。
2022年の発売以来、私のαのEマウントには、まるで強力な接着剤で固定されているかのように、このレンズが装着され続けています。本日は、このレンズがなぜ私にとって(そして多くのクリエイターにとって)「最高傑作」と呼べるのか、その理由を3000字を超える熱量で徹底的に語り尽くしたいと思います。
第一印象:手にした瞬間に感じる「劇的な進化」
初代「FE 24-70mm F2.8 GM(SEL2470GM)」が登場したのは2016年のことでした。当時の基準でも非常に優秀なレンズでしたが、一つだけ大きな弱点がありました。それは「重さ」と「大きさ」です。重量は約886g。長時間の撮影や、ジンバルに載せての動画撮影では、体力的な負担が無視できないレベルでした。
しかし、第2世代となるこの「SEL2470GM2」は、その常識を見事に覆しました。なんと、重量は約695g。初代から約20%もの軽量化、体積比でも約18%の小型化を実現したのです。
初めて箱から取り出し、カメラボディに装着して構えた時の衝撃は今でも忘れられません。「本当にこれはF2.8通しの標準ズームなのか?」と疑いたくなるほどの軽快さ。重心バランスがボディ側に寄っているため、数値以上に軽く感じます。1日中首から下げてスナップ撮影をしても、疲労感がまったく違います。
写真家にとって「機動力」は、そのまま「シャッターチャンスの数」に直結します。重くてバッグから出すのが億劫になるレンズは、どんなに描写が優れていても意味がありません。SEL2470GM2は、最高峰のG Masterの描写力を、いつでもどこでも持ち歩けるサイズに落とし込んだ、まさに技術の結晶なのです。
描写性能:単焦点レンズを脅かす圧倒的な解像感とボケ味
私がこのレンズを「究極」と呼ぶ最大の理由は、その描写性能にあります。標準ズームレンズは便利である反面、「描写は単焦点レンズに一歩譲る」というのがかつての常識でした。しかし、SEL2470GM2はその常識を過去のものにしました。
画面の隅々までシャープな解像力
広角端24mmから望遠端70mmまで、そして絞り開放のF2.8から、驚異的な解像力を発揮します。風景撮影で木の葉を撮影すれば、葉脈の一本一本まで克明に描き出し、ポートレートではまつ毛の先や瞳の虹彩までを鋭く解像します。超高度非球面(XA)レンズ2枚を含む高度な光学設計により、色収差や歪曲収差も見事に補正されており、画面周辺部まで画像の破綻がありません。
とろけるように美しいボケ味
解像力が高いレンズは、往々にしてボケが硬くなりがちですが、G Masterの称号を冠するこのレンズは違います。新開発の11枚羽根の円形絞りと、製造工程での0.01ミクロン単位のシミュレーションにより、年輪ボケ(玉ねぎボケ)を極限まで抑制。背景の光源は美しい真円を描き、被写体から背景へと滑らかに溶けていくような、極上のボケ味を堪能できます。70mm F2.8で撮影するポートレートは、85mmの単焦点レンズに匹敵する立体感を生み出します。
逆光を味方につけるナノARコーティングII
私が特に感動したのは、逆光時の強さです。夕日を背景にしたドラマチックなポートレートや、強い太陽光が差し込む森の中での風景撮影において、フレアやゴーストは写真のコントラストを低下させる天敵です。しかし、ソニー独自の「ナノARコーティングII」が施されたこのレンズは、強い光源が画面内に入ってもクリアでヌケの良い描写を維持します。光を恐れることなく、大胆な構図で撮影に挑むことができるのです。
AF性能:爆速・無音・そして正確無比
どんなに素晴らしい描写力を持っていても、ピントが合っていなければただの失敗写真です。プロの現場では、一瞬の表情や動きを逃さないAF性能が求められます。
SEL2470GM2には、ソニーが誇る高推力な「XD(extreme dynamic)リニアモーター」がなんと4基も搭載されています。これにより、AFの速度と精度は初代から飛躍的に向上しました。
例えば、こちらに向かって全速力で走ってくる子供や犬の撮影。あるいは、結婚式でバージンロードを歩いてくる新郎新婦。被写界深度の浅いF2.8の開放状態でも、αボディの優秀なリアルタイムトラッキングと瞳AFと連携し、被写体の瞳にピントをビシッと合わせ続けます。
しかも、その動作は完全に「無音」です。静寂が求められるクラシックコンサートや舞台撮影、あるいは警戒心の強い野生動物の撮影において、AFの駆動音がしないことは絶大なメリットとなります。
クリエイターの要望に応える卓越した操作性
スペック表には現れにくい部分ですが、プロの道具としての「操作感」も極限までブラッシュアップされています。
- ズーム操作感切り替えスイッチ(Smooth / Tight): レンズの下部に配置されたこのスイッチにより、ズームリングの重さを変更できます。「Smooth」にすれば、動画撮影時などに滑らかなズームイン・ズームアウトが可能に。「Tight」にすれば、移動中にレンズの自重でズームが伸びてしまう(クリープ現象)を防ぐことができます。
- 絞りリングの搭載: 初代にはなかった絞りリングが追加されました。直感的に絞り値を変更できるだけでなく、クリックのON/OFFスイッチも搭載。動画撮影時にはクリックをOFFにすることで、録音に操作音が入るのを防ぎつつ、シームレスな露出変更が可能です。
- 2つのフォーカスホールドボタン: 横位置でも縦位置でも押しやすい場所に配置されており、瞳AFや被写体認識など、好みの機能を割り当てることができます。
これらの機能が、いかに現場のクリエイターの声を拾い上げ、真摯に開発に反映させたかを物語っています。
最短撮影距離の短縮がもたらす「マクロ的」な表現
標準ズームレンズを使っていると、「もっと被写体に寄りたいのに、ピントが合わない」というもどかしさを感じることがあります。料理の写真や、テーブルフォト、あるいは指輪などの小物を撮影する際です。
SEL2470GM2は、最短撮影距離が広角端で0.21m、望遠端で0.3mと、驚異的な近接撮影能力を誇ります。最大撮影倍率も0.32倍となっており、もはや「ハーフマクロ」と言っても過言ではないほど被写体にクローズアップできます。
70mmの望遠端で被写体にグッと寄り、F2.8の開放でシャッターを切れば、背景は見事にボケて被写体が力強く浮かび上がります。標準ズームレンズでありながら、広角、標準、中望遠、そしてマクロ的な使い方まで、1本で4役も5役もこなしてしまう。このレンズの汎用性の高さは、他の追随を許しません。
動画クリエイターにとっても最強の選択肢
近年、写真だけでなく動画も撮影するハイブリッドクリエイターが増えています。SEL2470GM2は、動画撮影においてもその真価を発揮します。
前述の軽量・コンパクトな設計は、DJI RSシリーズなどのジンバルに乗せた際のバランス取りを容易にします。さらに、ズーム時の重心移動が非常に少なく設計されているため、24mmでバランスを取った後、70mmにズームしても再調整の手間が最小限で済みます。
また、動画撮影時に厄介な「フォーカスブリージング(ピント位置を変える際に画角が変動してしまう現象)」も、レンズの光学設計とボディ側のブリージング補正機能(対応機種のみ)を組み合わせることで、ほぼ完全に打ち消すことができます。シネマライクなフォーカス送りが、誰でも簡単に実現できるのです。
単焦点レンズはもう必要ないのか?
「これほど高性能なら、単焦点レンズはもう不要なのでは?」
そう問われると、写真家としては非常に悩ましいところです。F1.4やF1.2といった極端に浅い被写界深度や、特定の画角に縛られることで生まれるストイックな表現力は、単焦点レンズならではの魅力です。
しかし、実際の仕事の現場や、荷物を極力減らしたい旅行、シャッターチャンスが予測できないイベント撮影において、「レンズ交換の手間」は命取りになります。
24mmの広大な風景、35mmの自然なスナップ、50mmのポートレート、そして70mmの引き寄せ効果。これらすべてを、F2.8という十分な明るさで、単焦点に匹敵する画質でシームレスに行き来できる。SEL2470GM2は、「単焦点を不要にする」のではなく、「4本の単焦点レンズを1本の筒に詰め込んだ魔法のレンズ」だと言えるでしょう。
価格について:これは「消費」ではなく「投資」である
さて、ここまで絶賛してきましたが、唯一のハードルはその価格です。希望小売価格は30万円近く(※執筆時点)、決して安い買い物ではありません。「標準ズームに30万……」と足踏みしてしまう気持ちは痛いほど分かります。
しかし、こう考えてみてください。最高峰の解像力を持つ24mm、35mm、50mm、70mmの単焦点レンズを4本揃えようと思ったら、いくらかかるでしょうか? おそらく100万円を超えてしまうでしょう。さらに、それらを持ち歩くための巨大なカメラバッグと、体力も必要になります。
SEL2470GM2は、そのすべてを約695gのコンパクトなボディで実現してくれます。何より、このレンズを手に入れることで「機材に対する言い訳」が一切できなくなります。ピントが合わなかった、解像しなかった、逆光で失敗した……それらの問題の大部分を、このレンズが解決してくれます。残るのは、あなた自身の「感性」と「腕」のみです。
あなたが本気で写真や映像に向き合いたいと考えているなら、このレンズは単なる高い買い物ではなく、あなたの表現力を飛躍的に引き上げる最高の「投資」になるはずです。

