写真や動画撮影をしていると、一度は耳にする「NDフィルター」。
「なんとなく露出を調整するもの?」
「明るすぎるときに使うって聞くけど、具体的にどう便利なの?」
そんな疑問を持つ方は多いと思います。NDフィルターは、一言で言えば“光量をコントロールできる魔法のアイテム”です。撮影に制限があるシーンでも、表現の幅を一気に広げてくれます。特に昨今では、動画撮影が一般化したことでNDフィルターの重要性はさらに高まりました。
この記事では、NDフィルターの基礎から実践テクニックまで徹底的に詳しく解説します。初めて購入する方にも、既に持っているけど活用できていないという方にも役立つ内容です。
NDフィルターとは
NDフィルターとは Neutral Density Filter(ニュートラル・デンシティ・フィルター) の略で、
レンズに入る光の量を均一に減らすフィルター のこと。
サングラスのように光を遮り、撮影時の露出を意図的に抑えることで、通常では撮れない表現を可能にします。
NDフィルターが使われる理由
NDフィルターが多くの写真家・映像制作者から重宝される理由は、「表現の選択肢を増やしてくれる」からです。
シャッタースピードを遅くして動きを表現できる
水流や雲の流れ、車のライトの軌跡など、夢幻的な“長秒露光”はNDフィルターがあってこそ。
- 滝をシルクのように滑らかにしたい
- 海の波をふわっとした質感にしたい
- 街中の車を光のラインにしたい
こうした表現は、明るい昼間ではシャッタースピードが遅くできず不可能。しかしNDフィルターを使うと昼間でも1秒、5秒、場合によっては30秒以上の露光が可能になります。
絞りを開けて背景を大きくぼかせる
晴天の屋外でF1.4やF1.8などの“開放絞り”を使いたくても、シャッタースピードが上限に達してしまい露出オーバーに。
NDフィルターがあれば余裕で開放F値が使えます。
特にポートレート撮影では効果抜群。
屋外でも“とろけるボケ”を保ったまま撮影できます。
NDフィルターの種類
フィルターの形状による分類
丸型(ねじ込み式)
- 特徴: レンズに直接ねじ込んで装着。最も一般的で手軽。
- メリット: 光漏れの心配が少ない。コンパクト。
- デメリット: 複数のレンズ径に対応するには、ステップアップ/ダウンリングか、径ごとに購入が必要。
角型(スロットイン式)
- 特徴: ホルダーをレンズに装着し、板状のフィルターを差し込む。
- メリット: 径の異なるレンズで使い回しが容易。グラデーションND(GND)と併用できる。
- デメリット: かさばる。光漏れ対策(マスキング)が必要な場合がある。
固定と可変
丸型(ねじ込み式)には、固定と可変の種類があります。
固定ND(ND8、ND64、ND1000 など)
一定の濃さのフィルター。
主に写真向けで、色被りが少なく画質も安定しています。
数値の意味は以下の通り。
- ND4 → 2段分暗く(1/4の光量)
- ND8 → 3段分暗く(1/8の光量)
- ND64 → 6段分暗く
- ND1000 → 約10段分暗く
ND1000は、昼間でも10秒以上の長秒露光ができ、雲や海を幻想的に撮りたいときに大活躍します。
可変ND(Variable ND / V-ND)
リングを回すだけで濃度が変わる便利なフィルター。
動画撮影ではほぼ常識と言っていいほど採用されています。
- ND2〜ND32
- ND8〜ND128
など、製品によって範囲は異なります。
ただし注意点もあり、濃度を上げるとX状のムラ(クロスパターン)が出ることがあります。
NDフィルターの実践的な活用術
水の表現:滑らかさ(シルキー)の演出
- 滝や渓流: NDフィルターを使用し、シャッタースピードを1/4秒〜数秒に設定することで、水の流れが「絹(シルク)」のように滑らかで幻想的に写ります。
- 海や湖: ND64やND1000を使用し、15秒以上の長時間露光を行うことで、水面を霧や煙のように表現したり、波の動きを消して静けさを強調できます。
雲や時間の流れの表現
- 動く雲: ND1000などで30秒〜120秒といった超長時間露光を行うと、雲が線状に流れ、時間の経過をドラマチックに表現できます。
- タイムラプス撮影:NDフィルターを使うことで、1コマあたりの露光時間を長くし、より自然で滑らかな動きのタイムラプス動画を制作できます。
人や動きを消すテクニック
非常に混雑した観光地でND1000を使い、数十秒〜数分の長時間露光を行うと、動き回る人々が「透明」になって写らなくなり、建築物や風景だけを際立たせることができます。
大口径レンズのボケを活かす
晴天の屋外でF1.4などの開放絞り(背景を大きくぼかしたい)を使用すると、シャッタースピードを最速にしても露出オーバーになりがちです。ND8やND16を装着することで、適正露出を保ったまま最大限のボケを活かせます。
NDフィルターの選び方
選ぶときは「画質」「色被り」「利便性」の3つを基準にしましょう。
画質(シャープさ)
安価なNDフィルターはシャープネスが落ちたり、周辺減光が強く出ることがあります。
特に高画素機(40MP〜60MP)では顕著です。
風景・作品撮りをするなら 高品質ND をおすすめします。
色被りの少なさ
NDフィルターは濃くなるほど色被りが出やすく、
- 緑かぶり
- マゼンタかぶり
などのクセが製品によって異なります。
後処理で補正できますが、動画編集では手間が激増するため、色被りの少ないハイエンドNDを選ぶと快適です。
自分の撮影スタイルに合うタイプを選ぶ
- 写真中心 → 固定ND(ND8、ND64、ND1000)
- 動画中心 → 可変ND(V-ND)
- 両方 → 固定ND+可変NDの2枚持ち
NDフィルター使用時の注意点
ゴースト・フレアが増える
特に逆光ではフレアが出やすいので、コーティングの質が重要です。
露光時間が長くなるため、三脚が必須
ND1000での撮影には、安定感のある三脚が欠かせません。
可変NDの“Xムラ”に注意
広角レンズで濃度を上げるほど発生しやすくなります。
フィルター径に注意
同じレンズでもフィルター径が違うことがあります。
ステップアップリングを使えば、1枚のNDで複数レンズを使い回せて便利です。
NDフィルターは“表現の幅を広げる”写真家の必須アイテム
NDフィルターは、ただ露出を抑えるための道具ではありません。
- 水の流れを滑らかに
- 雲の動きをダイナミックに
- 背景を大きくぼかしたポートレート
- 混雑する街の人を消した長秒露光
- 動画で映画のようなモーションブラー
こうした表現はNDフィルターがあってこそ実現できます。
“光を削る”というシンプルな機能ですが、得られる表現の幅は無限。
写真をさらに深く楽しみたい、動画のクオリティを上げたい、そんな方にとってNDフィルターは欠かせない存在です。
これからNDフィルターを購入する方も、すでに持っているけれど使いこなせていない方も、ぜひ今回紹介したポイントを参考に、NDフィルターを活用してみてください。
撮影の世界が、きっと一段広がります。

