写真を撮るうえで「レンズフード」は地味な存在に見えるかもしれません。カメラ本体やレンズほど目立たず、初心者の方からすると「ただのプラスチックの筒」にしか見えないこともあるでしょう。
しかし、レンズフードは欠かせない存在です。光をコントロールし、画質を守り、時にはレンズそのものを保護する―その役割は想像以上に大きいのです。
この記事では、レンズフードの基本から種類、効果、実際の使用シーンまでを詳しく解説します。
レンズフードの基本的な役割
フレアやゴーストの防止
強い光源が画面外にあると、レンズ内部で反射が起こり「フレア」や「ゴースト」と呼ばれる光のにじみが発生します。これが写真のコントラストを下げ、色を濁らせる原因になります。レンズフードは不要な光を遮ることで、これらの現象を防ぎます。
コントラストと色再現性の向上
光の回り込みを防ぐことで、写真の黒が締まり、色の鮮やかさが保たれます。特に逆光や斜光のシーンでは、フードの有無で仕上がりが大きく変わります
物理的な保護
撮影中にレンズ先端がぶつかることは意外と多いものです。フードがあることで衝撃を吸収し、レンズガラスを守る役割も果たします。屋外撮影では雨粒や砂埃から守る効果もあります。
レンズフードの種類と特徴
円筒型(丸型)
最もシンプルな形状で、望遠レンズに多く採用されています。光をしっかり遮るため効果は高いですが、広角レンズでは画面の四隅に写り込む「ケラレ」が発生しやすいので注意が必要です。
特徴
- 遮光性が非常に高い
- フードが大きく、保護力も高い
- プロの望遠レンズはほぼこの形
花形(チューリップ型)
広角から標準レンズに多く使われる形状です。画角に合わせて不要な部分だけを削り、ケラレを防ぎつつ光の侵入を抑えます。見た目も特徴的で、レンズフードといえばこの形を思い浮かべる人も多いでしょう。
特徴
- フレア防止性能が高い
- レンズに合わせて専用設計
- 見た目もスタイリッシュ
ラバーフード(折りたたみ式)
柔らかいゴム素材でできており、持ち運びに便利です。折りたたんで収納できるため旅行やスナップ撮影に向いています。ただし耐久性や遮光効果はプラスチック製に劣る場合があります。
特徴
- コンパクト
- 汎用品が多く、安価
- ただし強度・遮光性能は低め
レンズフードの活用術
レンズフードは、単なる防御的なアクセサリーではなく、創造的な表現にも活用できるツールです。
逆光撮影における必須アイテム
ポートレートや風景写真で、ドラマチックな逆光(光源を画面内または画面近くに配置する)の表現を試みる場合、レンズフードは必須です。
意図的にフレアを出す表現もありますが、多くの場合、被写体のディテールや表情を保ちつつ、背景の光を最大限に活用したいと考えます。レンズフードは、不要な迷光や過剰なフレアを抑制し、被写体の輪郭を際立たせ、ハイライトの情報を保持するのに役立ちます。強い光の中でも、コントラストと彩度を維持した質の高い逆光写真を撮るための鍵となります。
室内撮影・ストロボ撮影での利用
屋外だけでなく、室内での撮影や、オフカメラストロボ(外部フラッシュ)を使用する際にもレンズフードは有効です。
- 室内の強い照明: 天井のスポットライトや、窓からの強い光が斜めにレンズに当たるのを防ぎます。
- ストロボの反射: 部屋の壁や天井にバウンス(反射)させたストロボ光が、意図せずレンズに侵入し、ゴーストを引き起こすことがあります。レンズフードは、この不必要な反射光を遮断するのにも役立ちます。
レンズフードに関するよくある疑問
純正品とサードパーティ製:どちらを選ぶべきか?
多くの場合は純正品のレンズフードを強く推奨します。
理由として、純正フードはそのレンズの光学設計(画角、焦点距離、センサーサイズ)に合わせて、ケラレが生じないギリギリのラインで、最も効果的な遮光ができるように設計されているからです。特に花形フードの場合、その精密なカットの形状は重要です。サードパーティ製の中には、安価な代わりに遮光効果が不十分であったり、ケラレが発生しやすいものもあります。最高の画質を求めるなら、純正品を選ぶべきです。
レンズフードを外すべきシチュエーションはあるか?
- 内蔵フラッシュの使用: 一眼レフカメラなどの内蔵フラッシュを使用する場合、フードの先端が影を作り、写真の下部に暗い半円状の影(フードの影)が写り込んでしまうことがあります。
- 極端な接写(マクロ撮影): 被写体に極限まで近づく場合、フードの先端が被写体や照明に干渉することがあります。
レンズフードの価値
レンズフードは単なる付属品ではなく「光を操るための道具」です。写真は光の芸術とも言われますが、その光をいかにコントロールするかで作品の質が決まります。レンズフードはその第一歩を担う存在です。
さらに、フードを付けることで「撮影者としての姿勢」が変わります。機材を大切に扱い、光を意識する―その意識が写真の上達につながります。初心者の方にも「まずはフードを付けて撮影してみてください」と強く勧めたい理由がここにあります。

