写真を始めたばかりの頃、「白飛び」や「黒つぶれ」という言葉に悩まされた経験はありませんか?
風景写真で空が真っ白に飛んでしまったり、逆光で人物の表情が真っ黒になったり…。どれだけ構図やタイミングが良くても、明るい部分や暗い部分がつぶれてしまうと写真のクオリティは大きく落ちてしまいます。
このような現象を左右するのが、カメラの「ダイナミックレンジ(Dynamic Range)」。
実はこのダイナミックレンジを理解し、上手に使いこなすだけで、写真の完成度は劇的に向上します。
本記事では、プ「ダイナミックレンジとは何か」「どう撮影に役立てればいいのか」を徹底的にわかりやすく解説します。
ダイナミックレンジとは?まずは本質を理解しよう
ダイナミックレンジとは、カメラが記録できる“明るさの幅”のことです。
・どれだけ暗い部分まで描写できるか
・どれだけ明るい部分まで階調を残せるか
その両端を合わせた「明暗のレンジ(幅)」を指します。
人間の目は非常に優れていて、暗い影の部分から太陽のような極端に明るい光まで、かなり広い範囲を同時に認識できます。しかしカメラのセンサーはまだそこまで万能ではありません。
そのため、
- カメラのレンジを超えた明るさ → 白飛び
- カメラのレンジを超えた暗さ → 黒つぶれ
という形で失われてしまうわけです。
ダイナミックレンジが広いカメラの特徴
- 白飛びしにくい
- 黒つぶれしにくい
- コントラストの高いシーンでも階調が残る
- RAW現像での復元耐性が高い
つまり、単純に画質が良いだけでなく「後で伸ばしやすい写真」になることが大きなメリットです。ここが、プロがダイナミックレンジを重視する最大の理由でもあります。
なぜダイナミックレンジが重要なのか?
夕景や朝日のシルエット写真
夕日を背景に人物を撮るとき、空の明るさと人物の暗さの差は非常に大きくなります。
- 空を綺麗に写す → 人物が真っ黒に
- 人物を明るく写す → 空が真っ白に
こんな経験、誰しもあるはずです。ダイナミックレンジが広いカメラなら、空の色も人物の輪郭も両方残しやすくなります。
室内から窓の外を見る場面
室内は暗い。窓の外は明るい。
この“極端な差”が、カメラにとっての試練です。
ダイナミックレンジの狭いカメラだと…
- 外が真っ白
- 室内が真っ黒
といった「トンネル写真あるある」が起きてしまいます。
一方、高ダイナミックレンジのカメラなら、室内のディテールも、外の風景もバランス良く残ります。
白い服・黒い服の集合写真
白いシャツが飛んでしまったり、黒いスーツのディテールが潰れたり…
集合写真で最も起きやすい問題です。
階調の幅が広いカメラなら、素材の質感までしっかり表現できます。
ダイナミックレンジはどう測られるのか
ダイナミックレンジは通常、「ストップ(EV)」という単位で表されます。
たとえば「14EVのダイナミックレンジ」という場合、
→ 1EVごとに明るさが2倍
→ 2の14乗 ≒ 16,384倍の明るさの幅を記録できる
という意味になります。
一般的なカメラは
- エントリークラス:12EV前後
- ミドル〜ハイエンド:13〜14EV
- プロ向けフルサイズ:14〜15EV以上
といった数値になります。
スマホのカメラが苦手としていたのもこのレンジ部分ですが、近年のスマホはHDR合成などソフトウェア処理が進化し、疑似的にかなり広いレンジを得られるようになってきました。
ダイナミックレンジを活かすための撮影テクニック
基本は「ハイライト優先」で露出を決める
白飛びしてしまった明るい部分は、RAWでも復元が極めて難しいです。
そのためプロは、
まず白飛びしない露出を作る → 暗部を後で持ち上げる
という方法をよく使います。
センサーの性能が高いカメラほど、暗部の持ち上げ(シャドウ補正)に強く、綺麗に復元できます。
RAWで撮るとダイナミックレンジを最大限に活かせる
JPEGはカメラ内で圧縮されているため、階調情報が失われています。
ダイナミックレンジの強さを最も活かせるのは、やはりRAW撮影です。
RAWでは、
- 白飛び寸前のハイライト回復
- 黒つぶれ寸前のシャドウ復元
どちらもJPEGより圧倒的に強力。
プロがRAWを使う最大の理由のひとつはこれです。
HDR撮影で限界を突破する
1枚の写真でレンジを収められないときはHDR(ハイダイナミックレンジ)撮影が便利です。
- 明るい写真(+EV)
- 普通の写真(±0EV)
- 暗い写真(-EV)
これらを合成することで、カメラの性能以上のダイナミックレンジを表現できます。
風景写真や建築写真でよく使われる手法で、特に逆光シーンで真価を発揮します。
逆光はむしろ高ダイナミックレンジカメラの見せ場
初心者には撮影が難しい逆光シーンですが、実は高ダイナミックレンジのカメラなら抜群に映える環境です。
- 日の光のフレア
- 被写体の陰影
- 空や背景の階調の豊かさ
これらを同時に描写できれば、写真のドラマチックさが一気に増します。
機材選びとダイナミックレンジ
近年のフルサイズミラーレスは特にレンジ性能が優秀です。例えば、SONY α7S IIIは暗部に強く、動画でも広いレンジを誇ります。一方で、APS-C機でも最新モデルは処理エンジンの進化で十分なレンジを確保しています。
メーカーごとの傾向もあり、ニコンは黒に強く、キャノンは白に強いといった特徴が語られることもあります。
ダイナミックレンジと表現の自由
写真は「記録」であると同時に「表現」です。レンジが広ければ現実に近い描写が可能ですが、あえて狭いレンジを選ぶことでドラマチックな効果を生むこともあります。例えば、逆光でシルエットを強調する、夜景で黒を深く沈めるなど、レンジの制約を「表現の武器」として使うこともできるのです。
ダイナミックレンジを理解すると写真が変わる
ダイナミックレンジは一見すると専門的な言葉ですが、実は写真表現の根底にある非常に重要な概念です。
- 白飛びや黒つぶれの原因がわかる
- 逆光や夕景でも思い通りに撮れる
- RAW現像の自由度が大幅に増す
- 記憶に近い自然な画作りができる
- 表現としてのハイコントラストにも活かせる
写真のクオリティを1段も2段も引き上げてくれる、そんな力があります。
ぜひ、今日から「明るさの幅」を意識した撮影を試してみてください。きっと今までとは違う描写に気づくはずです。

