35mmという焦点距離は、写真家にとって“日常を切り取る魔法の画角”といえるものです。風景でも人物でもスナップでも、使う人の想像力次第で無限の表現を可能にする焦点距離。そこに明るい開放F1.8とマクロ機能、そして手ブレ補正まで詰め込んだレンズが登場しました。
今回はこのレンズがどんな表現力を持ち、あなたの写真表現をどうアップデートするかを徹底解説します。
「35mm」という画角の魔力:視覚に近い、ストーリーを紡ぐ距離
まず、なぜ「35mm」なのか。ここが重要です。
標準レンズといえば50mmが定番ですが、50mmは「注視した視界」に近く、被写体を整理しやすい反面、少し窮屈に感じることがあります。一方で24mmや28mmの広角は、パース(歪み)が強く、日常を切り取るには少しドラマチックになりすぎることがあります。
35mmは、人間がぼーっと景色を眺めている時の「なんとなく見えている範囲」に一番近いのです。
- スナップ写真: 周囲の状況(背景)を程よく取り込みながら、主役を際立たせる。
- ポートレート: 手を伸ばせば触れられるような、親密な距離感を演出できる。
- 風景: 広大さを伝えつつ、足元のディテールも逃さない。
この「万能感」こそが、35mmが「ストリートフォトの王道」と呼ばれる理由です。そして、このRF35mmはその王道を極めています。
「ハーフマクロ」という唯一無二の武器
このレンズの最大の特徴は、名前に「MACRO」と付いている通り、最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロ撮影が可能だという点です。
一般的な35mmレンズの最短撮影距離は30cm前後が多いのですが、このレンズはなんと17cmまで寄れます。レンズの先端から被写体までは、わずか数センチです。これが何を意味するか。
カフェ・テーブルフォトの決定版
レストランやカフェで料理を撮る時、一般的なレンズだと「あと一歩寄れない!」と椅子を引いたり、立ち上がったりする必要がありますよね。しかし、このレンズなら座ったまま、お皿のディテールやシロップの質感までググッと寄って写し取ることができます。
質感の表現
撮影の現場でも、小物の物撮りや、結婚式での指輪のアップ、モデルの瞳のクローズアップなど、「寄り」の表現が必要な場面は多々あります。マクロ専用レンズを別に持ち歩かなくても、この一本で完結するのは、機動力が命のブロガーやフォトグラファーにとって最大のメリットです。
開放F1.8の明るさと、極上の「ボケ味」
「F1.8」というスペックは、一見するとF1.2やF1.4の影に隠れがちですが、実用においては「黄金のバランス」です。
暗所での強さ
夕暮れ時の街角や、照明を落としたレストラン。F1.8の明るさがあれば、ISO感度を上げすぎることなく、その場の空気感を壊さずにシャッターを切ることができます。
フルサイズならではのボケ
「35mmだとあまりボケないのでは?」と思うかもしれませんが、最短撮影距離が短いこのレンズで被写体に寄れば、背景は驚くほどとろけるようにボケます。ボケの質も非常に素直で、ザワつきが少なく、被写体がふわりと浮き上がるような立体感を得られます。
強力な手ブレ補正(IS)がもたらす自由
RF 35mm F1.8 MACRO IS STMには、最大5段分(ボディ内手ブレ補正搭載機なら最大7段分)の強力な光学式手ブレ補正が搭載されています。
これが本当に恐ろしい。
- 夜景スナップを三脚なしで: シャッタースピード0.5秒や1秒といった、通常なら三脚が必須の領域でも、脇を締めて集中すれば手持ちで撮れてしまいます。
- 動画撮影での安定感: 最近はVlogを撮る方も多いですが、このレンズのISは動画でも非常に優秀です。歩きながらの撮影でも、カクつきを抑えたスムーズな映像が撮れます。
「暗いから撮れない」という言い訳を、このレンズは完全に消し去ってくれます。
驚異的な「軽さ」と「コンパクトさ」こそ正義
断言します。「重いレンズは、やがて持ち出さなくなる」。
このレンズの重量はわずか約305g。EOS R8のような軽量ボディと組み合わせれば、セットで1kgを大幅に下回ります。
- 旅先での負担軽減: 一日中歩き回る旅で、首から下げていても苦になりません。
- 威圧感を与えない: 大きなLレンズを向けると、撮られる側は身構えてしまいます。このコンパクトなサイズなら、家族や友人もリラックスした表情を見せてくれます。
「カメラを持っていくかどうか迷う」という時、このレンズがあれば「軽いからとりあえず持っていこう」と思える。この「シャッターチャンスへの打席数」が増えることこそが、写真の上達と良い作品への近道なのです。
写りの質感:デジタル時代の最適解
「Lレンズ(赤ライン)」ではないため、画質を心配する方もいるかもしれません。しかし、実際に撮影データを見てみれば、その懸念は吹き飛びます。
- 中央部の解像度: 開放から非常にシャープです。瞳AFで合わせた睫毛の一本一本まで描写します。
- 色乗り: キャノンらしい、記憶に忠実で鮮やかな発色。
- 周辺減光: 開放では多少の周辺減光がありますが、これはむしろ「味」として作品の雰囲気を高めてくれますし、ボディ内補正やLightroomで一瞬で直せます。
最新のRFマウント設計により、オールドレンズのような欠点は抑えつつ、現代的なパキッとした写りと、マクロ的な繊細さを両立しています。
このレンズを120%活かすテクニック
ただシャッターを切るだけでも綺麗に撮れますが、ブロガーとしてこのレンズを使い倒すためのコツを伝授します。
「コントロールリング」に露出補正を割り当てる
RFレンズ特有のコントロールリング。ここには「露出補正」を割り当てるのがお勧めです。左手でリングを回しながら、直感的に明るさをコントロールする。この操作感は一度慣れると戻れません。
あえて「寄ってから引く」
マクロ機能を活かすために、まずは被写体に限界まで寄ってみてください。そこから少しずつ引いて構図を整える。そうすることで、これまでのレンズでは気づかなかった「ミクロの世界の美しさ」に出会えるはずです。
逆光を恐れない
このレンズは逆光にも比較的強く、綺麗なゴーストやフレアが出ることもあります。夕日を背にしたポートレートでは、あえて光をレンズに入れて、エモーショナルな一枚を狙ってみてください。
最高のコストパフォーマンス
最後にして、最大のポイント。それは価格です。
RFレンズラインナップの中には、30万円を超えるレンズがザラにあります。そんな中で、このRF35mmは(時期によりますが)7〜8万円前後で購入できます。
「安いから性能が低い」のではありません。「この性能でこの価格なのがおかしい」のです。キヤノンがEOS Rシステムを普及させるために、戦略的に投入した「撒き餌レンズ(の高級版)」と言っても過言ではありません。
このレンズは、あなたの「視点」を拡張する
RF 35mm F1.8 MACRO IS STMは、単なる機材ではありません。
日常の何気ないコップの滴を芸術に変え、旅先の路地裏をドラマチックに切り取り、愛する人の最高の笑顔を記録するための「最強の相棒」です。
もしあなたが、
- 「キットレンズの次に何を買えばいいか迷っている」
- 「重い機材に疲れてしまった」
- 「ブログやSNSでもっとクオリティの高い写真を上げたい」 と考えているなら、迷わずこのレンズを手に取ってください。
防湿庫に鎮座する高価なレンズよりも、あなたのバッグの中にいつも入っているこの35mmが、最も多くの思い出と傑作を作ってくれるはずです。
さあ、このレンズを持って街に出かけましょう。世界はもっと、近くで、美しく撮れるはずですから。

